いつか光になりたい

ナマケモノ

中学生の時の妄想

 優しい夕焼けが身を包む。

 熟れた果実のようにまっかな太陽を背に、弘人は歩いていた。

 

 「ふう、今日も一日が終わるのか」

 

 センチメンタルな気分に浸る弘人。

 今日は缶ジュースでも買って家で飲むか、と考えている彼だが、実は裏の顔があった。

 プルルルル!

 携帯電話が鳴る。

 

 「やれやれ、今日は平和に終わると思っていたんだがな」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平野弘人は、ヒーローである

 

 

 「がはっははは、インフラを全部破壊してやろう」

 

 そういったのは、ごつごつとした緑色の皮膚を全身にまとい、凶暴な顔つきをし、体長はだいたい10mという巨体の、人ならざるものだった。

 怪物は、宣言どうりに口から火を吐き、周りの建物を破壊していく。

 

 「きゃああああ助けてえええ」

 「ああああああ、死にたくないいい」

 

 突然の怪物の登場により、人々は恐怖していた。

 インフラがなくなるのも、時間の問題だった。

 

 その時だった。

 

 「そうはさせないわ!」

 

 りん、と鈴の音が鳴った。

 声の元に立つのは、一人の少女。

 

 「なんだ、オマエは」 

 「私の名前は、白金みすず! 怪人、人々平和を乱すというのなら、容赦しないんだから」

 

 

 

 

 ヒーローの、登場だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから少し時間がたった。

 みすずは、怪人を相手に苦戦していた。

 なにせ彼女はヒーローになってからまだ日が浅い。

 実戦経験が圧倒的に足りていないのに、一人で戦うのには無理があった。

 

 「くっ‥‥‥やっぱり、無理なの?」

 「ふん、一人で来たから、強いのかと思ったらとんでもなく雑魚だなあ、がはは」

 

 ぎりっ、とみすずは唇を噛みしめる。

 怪物の言葉通りだった。

 みすずは、現地でバディと合流してから先頭に入れという組織の意思を無視して、戦場へと飛び込んだのだ。

 だが、結果はぼろ負け。

 今はこの怪物が慢心をしているから、みすずは持ちこたえているが、そうでなかったら恐らくすでに殺されている。

 

 「そろそろ、遊ぶのにも飽きたなあ」

 「きゃっ」

 

 怪物はブン、と腕を振り払う。

 みすずは直に腕にぶち当たり、ビルへと吹き飛ばされた。

 ぐちゃ、と音がした。

 

 「あああああああああああああああああああ!」

 

 壊れちゃいけない臓器が壊れた、とみすずは思った。

 痛い痛い痛い痛い痛いと、みすずは泣いた。

 自分はこんなにも弱かったのかと、みすずは嘆いた。

 

 

 最後に、死にたくない、とみすずは願った。

 

 

 「助けて、たすけ」

 「おい、大丈夫かよ」

 

 薄れゆく景色の中見えたのは、赤髪の男が心配そうにこちらを覗き込む顔。

 そして、聞こえたのはあの忌々しい怪物の団睡魔。

 

 

 みすずが再び目覚めるころには、すべてが終わっていた。